「お父さん?」


「何?」


「兄ちゃん、帰って来る?」


「多分、お母さんからおれて、連れて帰ってくるよ!」


「はははっ!」

「あるある、絶対、兄ちゃんが考えを変える事はないだろうね!」


5分後、妻が帰ってきた。


「ガチャ! ドンドンドン!」

息子が先に家に入り、ソファーに座っている私とダイニングの椅子に座っている娘のほうに目線をむけずに、リビングを素通りして洗面所に入った。


「ただいま。」

妻は、うつむき加減で挨拶をした。


娘は、兄の帰ってきたのを見届け、何も言わずに自分の部屋へ戻った。

まさか、息子自身が帰ると言ったのでなく、妻が黙って車に乗れとか言ったのではないかなと思い、聞いてみた。


「浩二は、何か言ったのか?」

「うーん?」


「お父さん、怒るかもしれないけど、私から、いいから車に乗りなさいって、言ったの。」


案の定、妻から先におれたようだ。


「ジャア~!」

お風呂場から、シャワーの音が聞こえてきた。

息子は、そのまま、お風呂に入ったようだ...


「母さん?」


「はい。」


「浩二の目つきがちょっと違うような気がしたのだけど、そんな異変は母さんは何か感じなかったか?」


「そう、浩二の目つきが、ちょっと違うのは、部屋で話していた時に気がついていたわ。」


「そうだろう?」 


「あの目つきは何かおかしいんだ!」


「うん、おかしいみたいだね!」


「部屋でどのような話をしてたの?」

妻に聞いてみた。


「それが、身長が伸びない事もあれば...」


「えっ?」


「それは、小さな悩みで、学校に行かないとかの問題ではないような?」


「それだけじゃないの!」


「?」


「とにかく、意味不明な事ばかりを言い出して」


「...」

無言になる妻


「言い出して?」


「私も、どのように説明していいかわからないの...」

「はぁ~!」

妻が溜息をついた。


「それでは、幼稚園の子供がダダをこねてるようなものじゃないかな?」


「だから、そうでなくて、とにかく浩二が言ってる内容が、私には全くつかめないの」

「...」


「はぁ~!」

また、溜息をつく妻。


ここまでの話ならば、世間様でよく耳にする、子供の教育の問題であり、いちいち気にして、考えるような事ではないと思っていた。


「ガチャ!」

息子がお風呂から出てきた。


私とは、目をあわそうとせず、そのまま自分の部屋に戻った。


「火曜日に免許の更新に行こうと思ってたので、俺が大学に送って行くから、それまで様子をみてみよう!」


「うん、そうだね!」

妻もそう言うと、お風呂に入った。


翌日の早朝


「お父さん、お父さん。」

妻の呼ぶ声で目が覚めた。


「何?」


時計を見ると、まだ朝の6時前。


「ん?」


「浩二が、今、出て行ったの。」


「またか?」


「うん。」


「でも、出て行ったのを何故気がついたんだ?」


「携帯にメールが届いたの。」

妻は、携帯の着信はいつもバイブにしている。 そのため、私には気がつかなかったのだろう?


「やれやれ!」


「お養父さんにでも相談してみるか?」


「うーん、お父さん、年だしあまり心配かけたくないし...」


「そうだな。 確かに、こんな事相談したら、心配で心配で家に飛んでくるかもな?」


養父は、初孫である浩二が可愛くてしょうがない。


息子が、小学校の3年の時には有名私立中学に入学させろと、塾の申し込みと3年分の塾代のお金をまとめて持ってきてくれた。


養母も、養父の考えに賛成してたみたいだし...


「お兄ちゃんに電話してみるわ。」

妻には、年の離れた兄がいる。


「そうしようか!」

といっても、兄のところの子供はまだ、高校2年生。

はたして、こういった話に、的確な答えを出してくれるだろうかとの疑問もあった。


朝10時になり、妻は義兄に電話をした。


「13時過ぎに来るって!」


そして、13時ちょっと前。


「ピーンポーン!」


「こんにちは。」


「俺が来ても、何の解決にもならないかもな?」義兄がいきなり話し始めた。


「積の友達に経験者はいないのか?」


「うん、世の中不景気だし、俺の友達の子供は皆、高校を出て働き出したようだし...」


「うーん!」


兄は、しばらく黙り込んだ。...