Occupation vol-2

Occupation vol-2

こうして初日の仕事はものすごく速い時間の経過と共に終わった。
会社に帰り、ダンプ部の終業メンテナンスをして、事務所に戻った。

「知世ちゃん、ご苦労様~。」
哲也の母が、ねぎらいの言葉をかけてくれた。

「朝は、次の仕事先に回ってたから会えなかったけど、明日からは、私も乗るからね~。」
そう、哲也の母も大型ドライバーである。

「ふう~。」
ひとつ溜息を出し、会社をあとにし、マイカーでわずか5分しか離れていない自宅についた。

「ただいま~。」

「どうする、汗流す、それとも食事?」
母は、いつもと同じように出迎えてくれた。

「う~ん、先にシャワー浴びてから、今日は由美子とちょっと遊んでくるっ。」
昼間の由美子と電話で、遊ぶ約束をしていたので、洋服に着替えそのままマイカーで出かけた。

待ち合わせの場所のモールに車を止め、店内に入り、由美子を探した。
由美子は、既に今日の穴場のブティックの前に立っていて、私を見つけると、手招きしてそこに辿りついた。

「ねえねえ、ここよここ。・・・」
「ささ、入ってみようよ~。」
由美子の。この矢継ぎ早の子供のような会話で、店内に入ると、高級感溢れる商品が目に入ってきた。

「わあ~、ここすごい~。・・・」
「あ~、これ欲しかったんだ~?」
「あっ、これも、おっと、それもお~。・・・」

少し大人のセンスで取り揃えられているその商品が、自慢げに出迎えてくれた。
「あ~、やっぱ高いねえ~。」
「殆どコンセプト持ってる商品だし、みな、メイドインジャパンよ~。」
「あ~、いいなあ~。・・・」
由美子が、前々から目をつけていたこの店は、今日のギアチェンジの疲れを安息へと向かわさせてくれる。・・・

しばらく店内を歩き回り、下調べの終わった私と由美子は店外に出て、カジュアルレストランに入った。

「ふう~、よかったわ~。・・・」

「うん、今度は買い物いっぱいしなくちゃあね~。」
由美子と私は、この視覚で満喫した、そのものの余韻にふけった。

「ねね、で、どうなのダンプはっ?」

「今日は合計8回往復したの。・・・」

「で、辛くない?・・・」

「う~ん?・・・」
「確かにギアチェンジはきついよ。」
「でもね~、後は楽かな~?」
「で、みんな優しいの。」
「女性ドライバーは殆どその恩恵受けるみたい。・・・」

「そっかあ~、じゃあ、私もダンプ乗ろうかな~?」

「うん、それもいいかもねっ。」
「でも、由美子は良い男探しが目的なんじゃなあい~?・・・」

「そりゃあ、勿論そうだよお~。・・・」
「ふふっ。・・・」

「でも、お給料もいいし、マジで転職考えようかな~?・・・」

「あっ、だけど嫌味なドライバーもいたわっ。」
そう、あの荒いドライバーの事は忘れてはいけなかったのだ。・・・

「え~っ!」
「何、そいつって。・・・」
「そいつ、根にもってんのかなあ~?」
「あ~、嫌だ嫌だ、そいつ”もてない”んじゃないのかなあ~?」
「知世、そいつ絶対に気をつけなさいよお~。」

「うん、ありがとっ。・・・」
こうして、初仕事とエールを送ってくれる、友との交流の楽しい時間は瞬く間に過ぎ去り、家に帰って、今日2度目のシャワー浴びてからベッドに入ると共に、記憶は薄れていった。・・・

それから3日間は、あの嫌味なドライバーと出会うことなく、また、哲也と哲也のお母さんの運転するダンプと共に、往復の仕事をした。

春先の日差しがゆっくりと降りてくる、その道の上をひたすら往復するだけの単調な時間は、時おり、途中にある幼稚園の園児達が横断歩道を、よちよち横断する姿をみさせてくれて、ほのぼのとした感情も与えてくれる。

これが、高校生くらいになると、信号無視はするわ、自転車で割り込みをするわで、幼稚園からここまでの年月の間に起きた事情を深く考えされられる。

「私達の時代とは違う!」と思いたいが、その高校生とは3~5歳の年の差なのだ。・・・

また、この間にはあの由美子とのメール交換もしっかりと出来る。

会社の休日は日曜と後は、4日ほど、どこかで休みを入れればよい。
土曜日でも平日でも、祭日でも。・・・
今までと取得方法の考えは同じだが、流石に日曜ばかりは休めなかった。
それを考えるだけでも、非常に条件は良い!・・・

この会社に勤めだして始めての休日の前日、土曜日の日は、会社が休みのところも多く、家族連れのマイカーの、手糞なパパさんドライバーの割り込みにギクシャクした。・・・

いつも私ひとりだけの、この運転席の空間は、時には優しさに包まれたり、怒りという”きつい臭い”で充満される事もある。・・・

こうして4日間の仕事を終え、初休みの日曜日は5年ぶりの家族でのお出かけとなった。
私には3つ年上の兄がいる。
兄は、東京で就職していて、久々に実家に里帰りで帰ってきた。
また、街中を4人で歩くわけでなく、母と2人であちこちの店に飛び込むのを承知している、父と兄は、おそらくパチンコ屋にでも身を隠すつもりだろう。・・・

母との買い物も終わり、昼食は父のおごりで新しく出来た高層ビル内にある中華料理店で一番高いコースを選んだ。

食事も終え、レジでお金を払う父の後姿はとても寂しいようにも見えるが、親孝行として、こうして私が、一緒に出かけるだけでも安いものだと思うのは、私の勝手な考えだろうか?・・・

「知世、仕事はどうなんだ?」
家に帰った後の、団欒の時間に、父が聞いてきた。

「まあまあかな?」
「うん、思ったより楽だよっ。」

「そっかあ~、ならいいか~。」
楽天 的なのは父譲りなのかも?・・・

しかし、安息の時間はここまでだった。
翌日から3日間同じ場所への荷の移動であったが、木曜日の日に、違う場所への作業の変更だった。・・・

「知世ちゃん、今日は、丸建さんの所に行ってくれない?」
「ぼちぼち、慣れた頃だから大丈夫だろうし?・・・」
「あ~、チャーターなんだ!」
「その現場内で走るだけだし。・・・」
「きつくないから。・・・」
哲也からの指示であった。

「はい、じゃあ、その場所は?・・・」

「あ~、東の団地の裏側に砕石場があって、そこの横に丸建さんがある。・・・」
「それと、行き帰りの道は、大通り通っていけばいいし。・・・」

地図で確認しその現場に向かった。
そっか~、あそこは車で通った事があったしぃ~、そういえば、そんな会社見たことあったような?・・・

いつものように、おちびさん達を見る事は出来ないが、何れはあちこちの現場へ行くようになる。
これもひとつの経験だろう。・・・

「もしもし、知世?」
「ねえ、今日暇ないかな~?」
由美子から電話が入った。

「うん、今日は空いてるよって、いつもあんたとしか予定ないけど?・・・」

「あ~、よかった~。」
「実はね~、今週の土曜日高校の同窓会なんだ。・・・」
「それでぇ~、あのお店に行って、ちょっと服を選びたいんだよ~。」

「うん、わかった。」

「じゃあ、19時にモールでねっ。・・・」

今日の道程は、新たな現場というものもあり、自信も沸いてきている。

その砕石場も、海べりにもあり、大通りを運転するので楽であった。
現場へ到着し、事務所に入り、チャーターで来た旨の報告で、もらった今日の作業は、普段無人の100TONダンプで運搬する砕石で、その無人ダンプの故障により、私の会社にチャーター依頼がきたようだ。

ここでは全ての重機が大型で、ショベルも超特大のものもあり、指示を受けたその道程ですれ違う重機に目を奪われた。
「こんなのなら軽く、”ひとすくい”で、私の荷台はいっぱいになるだろうなあ~?・・・」
ちょっとした期待で、その先にある建屋を右折し、坂道を登ると、待ち受けていた重機は思ったほどの大きさでなかった。

「ざ~んね~ん。」
「まあ、こんなもんだよね~、人生はっ。・・・」
独り言を呟き、そのショベルの案内通り荷受状態とした。

しかし、目いっぱい積載される砂利は、今までの真砂土よりも比重が大きいので、かなり重い。・・・

「ちくしょう~、でかい重機期待して損したと思ったら、こんなに重いもの載せてくれて。・・・」
一瞬、残念と思ったのが残念な考えだった。
こうして、近場の移動は午前中だけで20往復、そして午後も同じくらいしただろうか?・・・

16時には作業も終わり、帰社することになった。
作業証明にサインして控えを貰い採石場を出た所でよからぬ考えが沸いた。
右折すれば大通り、そして左折すれば、何度か通った事のある、山越えのルート。・・・

たったの一週間の運転経験だけど、コンスタントにこれただけだが、空自信で左折の道を選択した。
その道幅は思ったより、広く、小さな峠を快適にいくつもこなして行く。
また、この走行は、運転操作に更なる自信もつけさせてくれている。・・・

しかし、この自信が思い違いであったというのが、わずか5分後に起きるとは夢にも思わなかった。

最後の峠を越え後は、ひたすら下るだけのその道は、段々道が狭く細くなっていく、道の両側の法面)のりめんからは木も生い茂っていて、アンテナに”ビシバシ”と当たっている。

そして、悪い事に前方からダンプが走ってきてるのが、見て取れた。

「あっちゃ~。・・・」
「これじゃあ、離合出来ないじゃん?・・・」
「ちぇっ、止まるしかないなあ~。・・・」

停車して前方から来たダンプを見ると、その運転手はあの嫌味な奴だった。・・・

「わ~、こりゃあ”サイアク”だよ~。・・・」
「誰が決めたのか、こういう場合は登り優先なんだよね~。・・・」
「仕方ない、バックしましょうか~ね~。」
関わりたくないという気持ちが大だった。
しかし、あの嫌味な奴は、ジワジワと接近してくる。・・・

ウインドウを開け、手で自分がバックする合図を送り下がろうとするが、そいつは”まだ”ジワジワと近づく。

「こいつ、根性わるぅ~。・・・」
ムカつきながらも、冷静にバックを試みるが、接近されたため、ダンプの頭が振れず、バックし難い。

バックミラーを見ると、1台の乗用車が後続車として後ろに止まったが、運転手は機転を利かせ、バックしてくれだした。

この停車位置から200mくらい下がらないと、離合出来ない。
ちょっとずつバックしていると、嫌味な奴は、あわせて近づいてくる。

「あ~ん、バック苦手なんだよね~。・・・」
独りで”ブツブツ”いいながら、亀さんスピードでバックする。
バックミラーで後方を見ると、後ろの車の運転者が降りて手合図をするが、前のこの”アホ”が接近してくるので、気が散ってしまう。

汗だくで50mバックしただろうか?
後ろで合図している人が、近づいてきた。

「れれ~?」
「もしかして新免さんかあ~?」
「俺、運転変わろうか?」
その男性は、前方のダンプが”ジワジワ”近づいているのに気づいた様子だった。

「でもお~。・・・」
「いいからいいから、ささ、早く降りて降りて。・・・」

その男性の言葉に甘え、運転を変わった。

「このクラスだと4TONと同じだな?」

「えっ?」
「免許持ってないの?」

「そだよ~。」

「じゃあ、いいわ。」
「私やるから。」

「いいのいいの。」
「さあ、後ろから車来ないように見ててくれない?・・・」
その男性は、バックに入れ、窓から身を半身乗り出し、ダ~ッと下がりだした。

私より上手い。・・・
それにこのバックの方法は、ベテランのドライバーの運転法のように思える。
いとも簡単に私のダンプを離合出来る場所までバックさせた。

「今日会社に帰ってから、ちゃんと練習しなよっ!」
その男性は、そういって、自分の車に乗り込んだ。

そしてあの嫌味な運転手は、”ニヤニヤ”と薄ら笑いで通り過ぎていった。

「あいつ、やな奴だな~?」
「今後も気をつけときなよ?」
「それから、俺が前走るから、後ついてきなっ。・・・」

くそ~お、カッコつけやがって~と思ったが、また、違う大型が来るかもと思い仕方なくダンプで後について走った。・・・
その狭い場所はそこだけで、後は大型同士でも楽に離合出来る場所であった。

また、私が、三叉路で右折のウインカーを点けると、その車はハザードを点灯させながら直進していった。

「ありがとう~、でも名前聞いとけばよかったかな~?・・・」
「まあ、あのブルーメタリックのローダウン車は、あまり見ないから、いつか逢えるだろう。・・・」

こうして帰社時間に遅れるわけでなく、無事到着した。
しかし、”悔しさ”がこみあげてきて、車庫に入れるためバックの練習を30分もしてしまった。
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「お~、知世ちゃん、バック練習しだして、何かあったのか~?」
哲也が問いかけてきた。

「そう、前進は、自信ついてきたけど、バックは、まだまだだから。・・・」

「そっかあ~、毎日練習すれば、じき慣れるよ。・・・」

「じゃあ、お先帰りま~す。」

確かにあの青年の言う通りだ、いつも誰かが助けてくれるわけでもないし。・・・
運転の上達に”メラメラ”という気持ちが目覚めた

家に帰り、あのときに流した冷や汗を、シャワーで流し、由美子のショッピングに付き合うため、モールに行った。

「知世~、今日は、ごめんね~。」

「うんうん、いいよいいよ。」

あのブティックへ入り、由美子はお気に入りの商品を次々と購入した。

「うわ~、まんぞくう~。」
レジで支払いを終えた由美子は、ご満悦の表現をする。

「じゃあ、何か食べようか?」
二人で、お好み焼き屋に入った。

「ねえねえ、知世元気ないけど、何かあった?」

「うん、あいつ、あの嫌味なやつがねえ~。」
今日あった出来事を説明した。

「何、それえ~?」
「そいつ、いい事ないと思うよ~、絶対にぃ。・・・」
「で、その男性はどんな人なの?」

「うん、年は同じくらいかな~?」
「でも、名前も聞いてないしぃ~。」
「まあ、それだけで名前は知りえる事もないわね~?」

「ふ~ん?」
「ねえ、ちょっとちょっと、外見てっ。・・・」
「あんな車じゃあないのかな?・・・」
由美子はお店の窓から外を見て話す。

「うん、そうそう彼だわ。」
「ナンバーも同じだし。・・・」

「ふ~ん、あいつかあ~?」
「連れは男性なのね~。」
助手席から男が降りているのを見て言った。

「まあねえ~、私がバック上手に出来ればよかっただけの事だしぃ~。・・・」

「あんたって、いつも自分で反省して物事終わりにするのねえ~。・・・」
「こりゃあ、だめだわ。・・・」

「何が?」

「うん、それはね~。」
「って、アホらしいから言わない。・・・」
由美子は何を言おうとしたのだろうか?・・・

由美子と別れ、家に帰り、自分の部屋で今日のあの場面を思い出した。

「はあ~、なんであいつが、あの時対向でくるかなあ~?」
「これじゃあ、先が思いやられるよお~。・・・」

翌日会社へは30分早く出社した。
「おはようございま~す。」

「知世ちゃんおはよう~。」
「って、今日は早いじゃん。」
哲也が事務所にいた。

「うん、ちょっと練習しようと思って。」
鍵を持ち外にでようとした。

「そうそう、あいつ、あの嫌味なやつ、事故ったらしいぞっ。」
「場所は、昨日知世ちゃんが行った、あの採石場の近くの山道でなっ。」
「その話を聞いた限りでは、あいつは免許取り消しみたいだな?・・・」
「はははっ、ざまあねえや~。・・・」

あの山道となると、私と離合した後だろう?・・・
それに、あの嫌味なやつとは、今後出会うことはない。・・・
しかし、それはそれ・・・

今後どんな輩が押し迫ってくるかもしれない。・・・
そう考えると、自分の努力は必要だろうと感じた。

バックの練習をした後、いつものルートの現場に向かった。

「今日も、あのおちびさんたちの姿が見れますように。・・・」
と、願いつつ。…

[完]