「はい!」
「お水を飲んでください!」
そういう彼の声が聞こえた。
「ゴクゴクゴク!」
「ふう~!」
水を飲む音と、なにやら安堵したような、妻の声が聞こえる。
「払いたまえ、守りたまえ、清めたまえ、幸ありたまえ」
また、彼の言葉が聞こえてきた。
「そうか?」
「お主は、天神川で命を落としたものか?」
「?」
「天神川?」
儀式前には、そんな話は聞いていない?
「何故に、黄金積にとり憑き、この者の家族をも苦しめるのだ?」
彼は、誰かに問いかけているようだ?
でも、私にとり憑いていた霊は、水子と生霊、そして、自殺者の霊という事だったのに...
この川で命を落としたって霊は、一体何なんだろう?
「いいか? お主はな?」
彼が霊にでも問いかけてるのだろうか?内容を聞いていても、また、その天神川は、ここ数年近寄った事もないし?...
「そうか、花見の季節に橋の欄干に腰掛、お酒を飲んでいたら、酔っ払ってしまい、そのまま川へ転落したのか?」
「?」
そんな話は、今までニュースでも見たことはないし、聞いたこともない。全く寝耳に水である?
儀式の1週間前のある日だった。
「明日、陰陽師さんが来てくれるって!」
仕事から帰ってきた私に家内がこう話しかけてきた。
「陰陽師って、TVでやってた、あれか?」
「そう。」
「ふ~ん!」
「明日は、土曜日でお父さんも会社休みだから、会って見れば?」
「う~ん!」
「どうして?」
「いや...」
「お父さん、いつも言ってたじゃない?」
「俺には、何か憑いてるとかって!」
「いや、でも、いい。」
「代わりに聞いておいて?」
「うん、わかった。」
翌日、私は用事を作って出かけた。
男とは、いざとなったら度胸がなくなるものである。
少しでも不安な事を頭によぎらせたら最後、妄想も含め取り越し苦労的な事まで考えてしまうからだろう?
体の調子が悪くなれば病院に行って、お医者さんに診てもらうというのが女性の考えのようだけど、男性は、最悪の事態まで、シュミレーションしてしまう、情けない動物なのである。
「ただいま!」
「おかえり!」
用事を済ませというより、臆病な私は、時間つぶしをして家に帰ってきた。
「2時間前に陰陽師さん来たよ!」
「はい!」
「これ名刺」
名刺には、陰陽師 木原則之と書いてあった。
「で、どうだった?」
「うん、私も、子供達、そして、この家にも悪い所がないって!」
「それとね! お養母さんが丁度帰って来てたようよ!」
「お袋が?」
「うん。」
私が20才のときに父が、そして、その翌年母が後を追うようにこの世を去っている。
「親父は?」
「うーん、お養母さんだけだって!」
「お養母さんは、木原さんが全部のお部屋を回っているときに、このリビングで、おとなしく座って待ってたらしいよ?」
「ふ~ん!」
まだ、半信半疑の私だった。
「母はあの世に行ってでも、いつまでたっても子供の私の事が気になるのだろうか?」
と、ふと感じた。
「ねえねえ! お養母さん、身長がこのくらいで、ちょっと小太りのような感じだった?」
「うん、身長は150cmくらいだったかな?」
当然、妻は母には逢った事がないので、私に聞いてきたのであろう。
「あとねえ~! 公園の斜め下の家があるじゃない!」
「斜め下の家?」
「そう、新しい家!」
「あ~、あそこかあ。」
「うん、その家。」
「そこのご主人が運が低迷している時に、建てたみたいよ?」
「そんな事まで、わかるのか?」
「うん。」
その家の事を思い出してみた。
「確かに、窓があちらこちらにあって、壁も少なければ強度も低下するし、色は黄色で...そんな感じだからかな?」
「うーん? それはどうだかわからない。」
「それよりも、俺の事は?」
「それが、会って見なければわからないって?」
「...」
「家相も悪くないし、妻にも子供にも何もとり憑いてないとなれば、俺の取りこし苦労だったのかな?」
「うん、そうかもね?」
しかし、その日の数時間後、息子に異変が現れた。
「トントントン!」
2階から降りてきた息子は、
「お母さん?」
「ちょっと...」
と、妻を部屋に呼んだ!...
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