陰陽師 事故

陰陽師 事故

「あ! あれね!」
妻が声にした。

「あれは、私が高校一年の時でした。」

「12月の初旬だったでしょうか? 朝起きたら雪が積もってまして…」

「その頃の雪にしては、少し多くて、学校が休校になったので、友人と遊びに出かけました。」

社会人なら、会社も休みになるわけでなく、憂鬱なスタートで仕事場に向かわなくてはならないが、学生は臨時休校となれば、こういう日は当然、お気軽モードに切り替わる。

行っていた高校はそれぞれ違うけど、友人のマサルと、信君と3人で原付にまたがり、隣町へとツーリングに出かけた。

街中は、通勤車の通行で雪もほとんど溶けていてた。

その脇を、原チャリでチョロチョロと走りぬけ、海沿いの道に出た。

5分も走っていると、少し、積雪が多いかなという感じだけど、路面は、原チャリで走るのに、全く支障のあるものではなかった。

緩やかな左カーブを曲がると、黒山の人だかりが見えた。

近くまで、原付で近づき、後は、歩いてその人ごみの中に紛れ込んだ。

「きゃあ~! 動いてるわよ!」
女性のわめき声が聞こえてきた。

「あ~、誰か助ける事は出来ないのか?」
と、叫ぶ男性の声。

人ごみを掻き分け、先端に出た私の目に入ったのは、海の中で沈んでいる一台の車!

冬の海はプランクトンの発生が少ないため、透明度もよく、わめいていた女性の言うとおり、沈んだ車の中で人が動いているのがはっきりと認識出来た。

傍観していた人の中には、泣き出した女性もいた。

レスキューもまだ到着していない、その状況のなか、どうすることも出来ない私達は、後ろ髪をひかれる思いで、その場を後にした。
というより、その光景は、まだ若かった私達の心を、どう処理してよいかわからなかったから、その場を逃げたのである。

まさるも信君もしばらく無言だった。

そして、隣町で遊んでの帰路、その場所にさしかかり、原付を停車して、周辺を探したけど海に落ちた車は引き上げられていたようだった。

心の中では、助かったのかな?と思いながら、原付を走らせた。

前方には大型トラックが走っている。

そして、そのトラックはウインカーをつけ、道路の左側で停車した…

しかし、その大型トラックを追い抜き始めた時に、前方に障害物が確認できた。

なんと、運転手がドアを目一杯あけて降りようとしているではないか?

あわてた私は、ブレーキをかける時間もなく、体を右側に傾斜させ、間一髪の所で、身を交わしたのである。

後続の友人たちは、急ブレーキで、停車出来、彼達も何事もなかったが、追い越した先で、青ざめた私の顔を見て、「危なかったなあ!」と、緊張した顔で話しかけてくれた。

丁度、妻と付き合い始めた時、その場所を通りかかり、このトラックの話しと海に落ちた車の話をした事がある。

「恐いね~!」

「うん! ビックリしたどころか、ちびりそうになった…」

そして、その落ちていた海の場所がここなんだと説明しようとした時に、10台くらい前方を走っていた、車が次のカーブを曲がらず正面の塀に突っ込んだ!

「うわ~?」

「何?」

「事故した!」

「誰が?」

「前を走っている車!」

「見てなかった?」

「うん、海の方角を見てたから…」

車を停車させ、

「ちょっと、救出に行ってくる。」

「うん!」

「タタタタタ」と、小走りにその事故車の側にかけより、他のドライバー達と運転手と、同乗者を車から助け出した時に、救急車が到着した。

「その場所は、ご主人の進行方向の左に海、そして、右側に線路が走っていて、カーブのところには、鉄道のトンネルがありますね?」

木原さんが、また、レポート用紙に図を書きはじめた。

彼は、

「うーん! この線路の横にお墓? 墓地ですかね?」

「かなり悪い気が漂っていますね!」

しばらくして、彼は

「生霊のイニシャルはMが苗字で名前がKという女性です。」
と、言い始めた。…