陰陽師  霊が消えた

陰陽師 霊が消えた

「ふう~」
隣で妻の声が聞こえてきた。

それにしても不思議である。
自分の意思で無いのに、何故体が勝手に動いてしまうのだろうか?

「払いたまえ、守りたまえ、清めたまえ、幸ありたまえ。」
彼の言葉に反応するように、右・左と体が勝手に動く。

今度は、どんな姿勢になるのであろう?
隣の妻の溜息の声は一体何なんだろうか?
頭の中では、目をあけてその光景を目にしたい一心である。
しかし、ここで目をあけることは出来ないし。・・・

「ズズーッ!」
先ほどの位置から、今度は右手が勝手に広がるようになっていく。

「スッ、スッ。」
拡がった右手は、居間の床面についた。
今度は、左肩が浮き始めた。
先ほどの体の位置と逆になりはじめた。

「ズズ~ッ!」
左腰がすれて音がする。
「ズズ~ッ!」

「ふう~。」

「大丈夫ですか?」
彼は妻に声をかけている。

「はい。」
妻が返事をしている声が聞こえる。

俺の体は今度はどうなるのだろうか?
完全に右側を向いて寝ている形になった。

「あれれ?」
「このまま左手があがれば、そして、この手が先ほどのように左に倒れれば壁に当たってしまう。」
自分の体でありながら、何者かに支配されている俺の左手は案の定、左側に倒れていった。

「バタンッ!」
しかし、壁には当たらなかった。

「今、自分の体は東側に頭を向けて寝転がっている。そして、先ほどは左の膝が壁に当たった。 この位置で右側を下にして横になり、左手がまた左側に反転したら?・・・」
不思議としか言葉にならない。

「ズズ~。」
今度は、右腰を浮かせている。

「ズズ~。」
そして、仰向けの状態になった。

「ジリジリジリ。」
頭が左側を向こうとして、髪の毛が床にすれて痛い。

「ジリジリジリ。」
今度は右側に向こうとしている。
とにかく、頭が右・左と勝手に動くので、床と髪の毛がこすれて痛くてしょうがない。

「払いたまえ・守りたまえ・清めたまえ・幸ありたまえ。」
彼の言葉に反応して、頭が勝手に右・左へと動く。・・・

「ササ~ッ!」
「ササ~ッ!」
彼とお付の人が、俺の側で何かをしている気配を感じる。

「ボソボソ。」
二人で何かを話している。

そうこうしている間にも、俺の頭は右・左へと動いている。
TVの番組で見たように勝手に体が動くのも感じられる。
しかし、この右・左と頭が動くのは見たことが無い。

また、取り憑いている霊が取り憑いた人の体を使い、話始めるのは見たことがあったが?・・・

しばらくして、右・左へと動いていた頭は自然と天を向く形で静止した。

「ご主人?」
彼が声をかけた。

「わかりますか?」

「はいっ。」

「じゃあ、目をあけて下さい。」
どうやら儀式は終わったようだ。

「ご自分で起き上がれますか?」

「はい。」
目をあけて、その位置に座った。

「はい、無事除霊が終わりました。」

「はい。」
ちいさく頷き、側を見ると、妻が俺のほうを見ている。

「ご主人様には、5人の霊が憑いていました。」

「5人ですか?」

「はい、しかし、守護霊様のお力をお借りして、無事その取り憑いていた霊は全て、ご主人さまのお体から取り除かれました。・・・」

「はい。」
何がなんだかわからない。
今、言えるのは、あのTVで見た光景の一部を自ら体験したのだろうという感じだけである。・・・

お供えのお神酒、そしておむすびを食し、彼の話を聞いた。

「ご主人、かなり暴れていましたね。」
付き人も頷いていた。

「暴れたって、右・左の動きですか?」

「そうです、一人の霊が中々出なかったので。・・・」

「それは、生霊の?」

「いえ、この土地に居座っていた男性の。・・・」

「あの、川とかなんとかって。・・・」

「そうです。」
「あの霊は、かなりの悪霊でしたよ。」
「嫌嫌って、首を振っていたでしょう?」

「そうですか。」
「あれが、そうですか。・・・」

「今後は、日本古来の鈴を持ってください。」
「霊は鈴を持っている人には寄り付きませんから。」

「はい、では早速購入します。」
こうして無事儀式は終わった。
片づけの終わった彼と付き人は、帰っていった。
屋外で見送り、ふと空を見上げると、何とも言えぬ夜空に星が沢山見える。
また、最近、こうして空を見上げる事はなく、とても新鮮に感じられた。

妻と二人リビングに入り、お茶を飲みながら話した。

「びっくりしたあ。勝手に体が動くし。」

「私も、勝手に両手が上がっていくし。・・・」
こうして、楽になった俺は、その夜、ぐっすり眠る事が出来た。

そして翌日、いつものように会社に出かけるのにも、半信半疑であった。

本当に、霊が?・・・
そして、除霊の効果は?・・・

その答えは、すぐに返ってきた。
まず、息子の浩二は何事も無く、大学に通い始め、そして、シャワー好きだった浩二は、湯船に浸かり始めた。
これは中学生の頃から湯船に浸からなくて、妻がガス代が高いとかで文句を言っていたから。
一体、どういった心境の変化なのだろうか?・・・

また、娘の学校の成績がグングンあがった。

妻も勤め先で役職を頂き、責任はあるにしてもここ数年頑張った甲斐があったと喜んでいる。

そして、私の身の回りは?
不思議な事に、過去に出逢った人の夢ばかり見始めている。
それは日に日に、昔に戻り、殆どの人が沢山夢に出てくる。
これは、何を意味しているのかは、今後の楽しみにしておこう。

[完]