陰陽師 番外編 そして夢で...

陰陽師 番外編 そして夢で…

「その夜みた夢が不思議だったんだよ、これが。」

「とあるお店にいて、あっ、そのお店はものすごく広くて、そして店員も多くいて。」

「アパレル?」

「そう、たぶんアパレル店だと思う。」
「その店の中央に、初めは工事現場とかにある、ハウスがあったんだ。」
「で、俺がそのハウス内で何かを見張ってて…」

「何のために?」

妻はいつも話しの腰を折る。

「それが何のためかはわからないんだ。」
「で、そのハウスがいつの間にか、お神輿に変わってて、そのお神輿の中に俺が当然いるんだよね。」

「守護霊様が神様だからじゃないの?」

「ああ、たぶんそうなんだろう。」
「でも、それでその夢は終わりなんだ。」

「何かの暗示よ、きっと。」

「そうすると、今度は、寝ている時に”ドンドンドンッ!”って、玄関を叩く音が聞こえてきて。」

「この、お家なの?」

「いや、その家は、俺が生まれた生家で、その家はうなぎの寝床みたいに東西に長い家なんだ。」

「ふ~ん。」

「で、その”ドンドンドンッ!”と叩く音の後に、助けてください、助けてくださいって、女性の声が聞こえるんだ。」

「まあ、恐いわね。」

実はこの夢は、実際に俺が妻と知り合う前の時に経験した事だった。
そのうなぎの寝床のような家は、増築増築で、俺の部屋は昔からあった家で、何度かの増築後に東側にも玄関が出来た。
当然、昔からあった玄関もそのままあって、その玄関から遊びに来た友人達が出入りをしていた。
自分はといえば、親達が使う東側の玄関から出入りして、その古いほうの玄関は、友人達が来ないときには完全に閉まっている。

その時は、もう少しで正月がやってくるといった年の瀬の日だった。

「ドンドンドンッ!」
「助けてください。助けてください。」
そういって、その日も女性の声が聞こえてきた。
初めは夢の中の出来事だと感じていたのだが、その音や女性の声はいつまでも聞こえてくる。

やがて不可思議な現象に目が覚めた。

「ドンドンドンッ!」
「助けてください。」
目が覚めた状態で、やっとそれが現実であることに気がつき、ハット我に返った俺の腕には、見る見るうちに鳥肌が立ってきて寒気までが襲ってきた。

「助けてください。」
女性の声はまだ聞こえていた。

ベッドから起き上がり、その声が聞こえる玄関のほうへと足を運ぼうとするのだが思ったように歩くことが出来なかった。
やっとの思いで玄関に辿りつき、側にあった野球用のアルミバットを手にして、恐る恐るその玄関を”ガラッツ!”と、勢いよく開けた…

しかし、そこには思いもよらぬ光景が目に入ってきた。
そう、月明かりに照らされたその玄関の外側には、誰も立っていなかったのである。
これが、過去の記憶であった。

しかし、この実際に経験した事の記憶の真実が、その夜の夢に現れたのである。

「ドンドンドンッ!」
「助けてください。」
その声を聞いて、その事が、今フラッシュバックされてきた。
その夢の中で、同じように玄関の側にあった、野球用のアルミバットを手にした俺は、恐る恐るその玄関を”ガラッ!”と、勢いよく 開けた…

「つもるぅ。」

「なあんだ、香、君だったのか。」
そう、玄関の外で助けてくれと言っていたのは、香という女性だった。

「お父さん、その女性を夢で見たの?」

「うん。」

「じゃあ、あのイニシャルの?」
「えっと、イニシャルKとかの?」

「そう、そのKだったんだ。」

「じゃあ、陰陽師の彼が言っていたのは当たってたって事?」

「うん、当たってた。」

「その女性が、お父さんと一緒に成りたかったのかな?」

「うん、そうだろうな?」
言葉を濁すしかなかった。

「どうしたんだ、こんな真夜中に?」
「それよりも、寒いから入りなよ。」

「うん」
香りは家の中に入ってきた。
しかし、香りはそれからいっさい話をしなくなった。

「何かあったの?」
話をしないのは当たり前、これは夢の中の話だからなのであろう。

でも、あの実際体験した時には、玄関の外には誰もいなかった。
女性の声と玄関の扉を叩く”ドンドンドンッ!”といった音だけは、しっかりと聞こえていたのに。
そして、その時は気色悪くなり、とっとと玄関をしめてベッドにもぐりこみ眠れない夜を過ごした。

「そうか!」
「生霊だから、姿や形は見えなかったのよ、きっと。」

「そうだろうな?」

「で、陰陽師さんがその姿というか、お父さんの背中側に立っている姿を霊視したので、それで、もうだめかな?」

「もう、だめだわって、夢の中にあらわれたのよ、きっと。」

「もうじき、除霊されるからってか?」

「そうそう。」

「でも、陰陽師の彼はそんな話しかたはしなかったぞ?」

「それはあ?」
妻も言葉に詰まったようだった。